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「バルセロナチェア」や「チューリップチェア」など、20世紀のデザイン史に名を刻む数々の名作家具を世に送り出してきたKnoll(ノル)。
その格式の高さや、歴史的なデザインの背景から、「どこの国のブランドなのか?」と疑問を持つ方も多いでしょう。
また、最近のKnoll Japanの事業解散のニュースを受け、日本国内での購入方法やサポート体制に不安を感じている方もいるかもしれません。
本記事では、Knollのルーツである創業国や、世界的な権威を確立した歴史的背景を、ライバルブランドとの関係や名作のエピソードを交えて深く掘り下げます。
そして、最新の販売ルートとして、日本の個人顧客が正規ルートでKnoll製品を購入できる方法についても詳しく解説します。
Knoll(ノル)は「アメリカ・ニューヨーク発」の世界的モダン家具ブランド

Knollは、アメリカ合衆国、ニューヨークに拠点を構える、歴史ある高級家具メーカーです。1938年、当時24歳であったドイツ生まれの家具商の息子、ハンス・G・ノルによってニューヨークで設立されました。
一昔前は「ノール」とカタカナ表記されることが多かったものの、近年は「ノル」という、よりネイティブな発音に近い表記に統一されています。
創業者のルーツと「ヨーロッパの伝統」
創業者のハンス・ノルは、革製家具を扱うドイツのトップブランド「ヴァルター・ノル(Walter Knoll)」を家業に持つ血統です。
彼は、ヨーロッパの伝統的な職人技術と、自身が持つ商才、そしてデザインに対する情熱を武器に、当時勃興していたアメリカのモダンデザイン運動に身を投じました。
当初はヨーロッパの家具の輸入販売を目指していましたが、第二次世界大戦の勃発により輸入が困難になったことで、国内でのオリジナル家具の生産へと大きく舵を切ることとなります。
この転換期に、ノル氏はデンマークの若手デザイナー、イェンス・リソムを相棒として迎え入れ、二人三脚で会社を大きく成長させていきました。
ハンス・ノルは「バウハウスが父、クランブルックが母」と例えられるように、ドイツの機能主義とアメリカのデザイン教育という、双方のデザイン思想と関係を経てKnollを発展させていきました。
Knollが「モダンデザインの歴史」と評される理由

「Knollの歴史はアメリカの近代デザイン運動の歴史そのものである」と評されるほど、Knollは20世紀のデザイン史において不可欠な存在です。
その権威性は、世界を代表するデザイナーたちとの画期的なコラボレーションによって築かれました。
ミッドセンチュリーの二大巨頭:ハーマンミラーとの対比
1940年代から1960年代にかけての「ミッドセンチュリー」期、第二次世界大戦後のアメリカで家具デザインの全盛期が巻き起こりました。
この時代、Knollとハーマンミラー(Herman Miller)はアメリカンモダンデザインを代表する二大巨頭として、常に比較対象となります。
Knollとハーマンミラーが比べられるのは、両社が優れたデザイナーを抱えていたことに加え、デザイナー同士の関係が複雑に絡み合っていたからです。
当時、ハーマンミラーは主にイームズ夫妻、ジョージ・ネルソンらを代表選手としていましたが、Knollはミース・ファン・デル・ローエ、エーロ・サーリネン、マルセル・ブロイヤー、ハリー・ベルトイア、そして妻のフローレンス・ノルなど、錚々たる建築家やデザイナーと協業しました。
デザイナーの中には、両社で活躍した人物もいます。
例えば、イサム・ノグチはハーマンミラーからガラスのコーヒーテーブルをリリースし、Knollからはサイクロンダイニングテーブルを販売していました。
また、ハリー・ベルトイアやドン・アルビンソンは、もともとイームズオフィスのメンバーでしたが、その後Knollへと移籍しています。
特にベルトイアはハンス・ノルに強く誘われKnollに迎え入れられ、自由なアーティストとして創作活動を許された結果、名作ダイヤモンドチェアを誕生させました。
Knollの3つの部門:Studio, Office, Textiles
Knoll社は、単なる家庭用家具だけでなく、オフィスやテキスタイルを含めた総合的なモダンデザインを展開するために、3つの部門で構成されています。
- Knoll Studio(ノル・スタジオ):ミース・ファン・デル・ローエやサーリネンといった著名なデザイナーの作品を扱う、Knollの顔とも言える部門です。
- Knoll Office(ノル・オフィス):快適で革新的なオフィス環境を提供する部門で、高品質なオフィス家具を扱っています。
- Knoll Textiles(ノル・テキスタイル):カーテンや椅子張り地などを製造するテキスタイル部門で、北米最大級のサプライヤでもあります。
このうちKnoll Officeは、ライバルであるハーマンミラーがアーロンチェアなどのオフィスチェアで有名であるのと同様に、Knollの事業の重要な柱です。
Knollのオフィスチェアを愛用するユーザーからは、「注文してた仕事用椅子が届いた!Knollというブランドのジェネレーションチェアとかいう。
なかなか良い感じ。正直こだわりないので、周りはハーマンミラーとかオカモト多いのでヘソだけ曲げてみた。」といった声もあり、個性とデザイン性を重視するユーザーに選ばれていることがわかります。
注文してた仕事用椅子が届いた!
Knollというブランドのジェネレーションチェアとかいう。
なかなか良い感じ。
正直こだわりないので、
周りはハーマンミラーとか
オカモト多いのでヘソだけ曲げてみた。 pic.twitter.com/kEuxh5vRY0— いたばし (@tomoitaxpost) October 24, 2024
Knollの成功の鍵は「フローレンス・ノル」の功績

Knollの世界的発展を語る上で、創業者の妻であるフローレンス・ノル(旧姓:フローレンス・シュスト)の存在は欠かせません。
彼女は、ビジネスセンスに満ちたハンス・ノルと公私にわたる最高のパートナーでした。
革新的なインテリアデザインサービス「ノルプランニングユニット」
フローレンス・ノルは、Knollに入社する以前からハンス・ノルと仕事を共にしており、1943年にデンマーク人デザイナーのイェンス・リソムが徴兵で一時的にKnollを離れると、彼女がデザイナーとして雇われました。
彼女は革新的なインテリアデザインサービス「ノルプランニングユニット」を設立し、アメリカのオフィスインテリアに革命を起こしました。
彼女のデザイン哲学は、個々の家具の個性を際立たせるというよりも、インテリア全体をより良く演出するというコンセプトが強く、これは彼女が尊敬する師であったミース・ファン・デル・ローエのモダン建築の思想に大きく影響を受けています。
巨匠たちからの信頼と独占製作権利
フローレンス・ノルの最大の功績は、彼女自身の優れたデザインセンスと、著名なデザイナーたちとの親交にありました。
彼女は、若き頃に師事していたモダン建築の巨匠ミース・ファン・デル・ローエから、彼の代表作であるバルセロナコレクション(バルセロナチェアなど)の独占製作権利を譲渡してもらうことに成功します。
ローエ氏が、愛する教え子であれば自身のデザインを損なうことなく完璧な状態で製品化できると、信頼していたからこそ実現した偉業です。
また、彼女が兄妹のように親しい交友関係を築いていたエーロ・サーリネンや、イームズオフィスを離れたハリー・ベルトイアなどからも、Knoll社での家具デザインを依頼することに成功し、Knollを現代家具のアイコンたらしめる土台を築き上げました。
時代を超えて愛されるKnollの名作家具とリアルな評判

Knollが取り扱うデザイナーズアイテムは、半世紀以上経った現在でも「美と心地良さを備えた使われる芸術品」と評されています。
その中でも特に有名な名作家具と、ユーザーのリアルな声を紹介します。
バルセロナチェア:モダンデザインの傑作
ルードヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエが1929年にデザインした傑作です。
モダンデザインのアイコンであり、ノル社製の製品のみが正規品として製造されています。
意匠権が切れているため、リプロダクト品が多く出回っていますが、Knoll社の製品とそれ以外の製品では、革の質感や座り心地などにおいて「天と地の差がある」と、実際に使用したユーザーは語っています。
チューリップチェアとテーブル:一本脚の革新的デザイン
フィンランドで生まれアメリカで活躍したエーロ・サーリネンによって1957年にデザインされた、近未来的なデザインのシリーズです。
このデザインは、テーブルの下が脚で混み合う「スラム化」を解決するため、一本脚で自立するという画期的な手法で誕生しました。
この優美な名作は今なお人気が高く、「ずっと欲しかったエーロ・サーリネンがデザインした真っ白なKnollのチューリップ テーブルが届いたのでリビングに置いてみた。
白い陶器のようなデザインと丸い一本足がとってもかわいい。黒いカリモクのソファにも合う。次はラグを深いグレーとかに変えたらもっと良くなりそう!」といった、その美しさに感動する声がSNS上でも見られます。
ずっと欲しかったエーロ・サーリネンがデザインした真っ白なKnollのチューリップ テーブルが届いたのでリビングに置いてみた。白い陶器のようなデザインと丸い一本足がとってもかわいい。黒いカリモクのソファにも合う。次はラグを深いグレーとかに変えたらもっと良くなりそう! pic.twitter.com/efCj2DOdQv
— Fumito Abe|necco inc. (@abefumito) July 21, 2019
ダイヤモンドチェア:彫刻家による傑作
彫刻家であるハリー・ベルトイアが1952年にデザインした、金属ワイヤー製のチェアです。
数百の湾曲したスチールロッドを溶接したフレームが特徴のプラットナーコレクション(ローテーブルなど)と同様、複雑で高い技術を必要とするアイテムですが、Knollはその量産を可能にしました。
金属という重厚な素材を、まるで空気のような軽快な印象の彫刻へと昇華させたこの作品は、20世紀のモダンデザインの中でも歴史に残る名作です。
【最新情報】Knoll Japan解散後の製品購入・窓口

Knollはアメリカのブランドですが、日本国内の販売ルートは過去に非常に複雑な経緯を辿ってきました。
当初は西武百貨店の事業部としてKnoll Japanが始まり、その後、別の百貨店の事業部や㈱チームネットへとライセンスが移管されています。
直近では2017年の夏より㈱インターオフィスと㈱イトーキの共同出資により新たなKnoll Japanが設立され、青山の外苑前にフラッグシップショールームを構えていました。
しかし、最新の情報としてKnoll Japan株式会社は2025年3月31日をもってショールーム営業を終了し、解散しています。
Knoll JapanショールームクローズおよびKnoll Japan株式会社解散のお知らせ
この度、Knoll Japanショールームは2025年3月31日(月)をもちまして営業を終了し、Knoll Japan株式会社は解散する運びとなりました。
Knoll Japanhttps://t.co/mxN4KRVa3L pic.twitter.com/3ZldymTYXo
— beep_R_A.K. (@beep_roadrunner) February 28, 2025
解散後のKnoll製品サポート体制
Knoll Japanの解散後も、Knoll製品自体が日本から撤退するわけではありません。
製品の取り扱いとサポートは、以下の専門会社に引き継がれています。
- 法人のお客様(Knoll Studio):株式会社インターオフィス
- 個人のお客様(Knoll Studio):MAARKET
- Knoll Office製品:株式会社イトーキ
- Knoll Textiles製品:ハーマンミラージャパン株式会社
また、ご購入済みのKnoll製品の保証期間(修理対応)は、テキスタイル製品を除き、上記各社にて引き続き有効とされています。
個人購入における正規販売店とECサイトの利用
Knoll製品を個人で購入する際の窓口の一つとしてMAARKETが指定されていますが、現時点でEC(通販)でKnollの主要なデザイナーズコレクションを正規販売店として購入できる主要なプラットフォームはFLYMEe(フライミー)です。
フライミーはKnollの正規取り扱い販売店であり、そのラインナップは多岐にわたります。
高額で一生モノとなるKnollの家具を選ぶ際は、正規の流通ルートを確保しているフライミーのようなECサイトを利用し、確かな品質とサポート体制のもとで購入することが賢明です。
まとめ:Knollは「モダンデザインの権威」であり、その価値は普遍
Knoll(ノル)は、創業者のルーツであるヨーロッパのデザイン哲学と、アメリカの革新的なモダンデザイン運動が融合して生まれたアメリカ発のブランドです。
「Knollの歴史は、そのままアメリカの近代デザイン運動の歴史でもある」と評されるように、その権威は揺るぎません。
ミース・ファン・デル・ローエのバルセロナチェアや、エーロ・サーリネンのチューリップチェアなど、Knollの製品は半世紀以上経った今も、「使われる芸術品」として世界中で愛されています。
特に、リプロダクト品が多く出回る中で、Knoll社の製品のみが正規品として認められている事実は、その品質とブランドの格式を証明しています。
日本国内ではKnoll Japanの解散という複雑な経緯がありましたが、製品の販売とサポート体制は現在も引き継がれています。
格式高いデザインの歴史を持つKnollの家具を、ぜひ正規のルートで手に入れて、日々の暮らしに取り入れてみてはいかがでしょうか。
・インテリア関連の専門家として長年活動中
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